「そんなことも分からないの?」
「普通は自分で考えるでしょ」
「なんで言われるまでやらなかったの?」
「前にも言ったよね?」
でも、そもそも……
その仕事について、十分な説明を受けていない。
そんな経験はありませんか?
上司から仕事を任されたものの、
- 何をすればいいのか具体的に分からない
- 優先順位を教えてもらえない
- 完成形や基準を説明されていない
- 質問すると「それくらい自分で考えて」と言われる
- 失敗すると「なぜ確認しなかった」と怒られる
- 後から「普通はこうする」と言われる
このような状況が続くと、
「私の仕事の進め方が悪いのかな?」
「もっと自分から動かなきゃいけないのかな?」
と、自分を責めてしまうことがあります。
しかし、ここで一度考えてみてほしいのです。
それは本当に「指導」なのでしょうか?
結論|「自分で考えさせる」と「何も教えない」は違う
結論からいうと、部下に自分で考えさせることと、必要な情報を与えずに放置することは別物です。
良い指導では、すべてを細かく教える必要はありません。
「ここまでが今回の目的です」
「期限は○日です」
「この部分はあなたの判断で進めてください」
「分からないところがあれば、この段階で確認してください」
というように、少なくとも仕事を進めるための目的・期限・期待される結果・判断の範囲などが共有されます。
一方で、
何も説明しない
↓
部下が自己判断する
↓
結果が気に入らない
↓
「なんでそんなやり方をした?」と怒る
という状態なら、これは「自主性を尊重した指導」とはかなり違います。
CIPD(英国の人事・組織開発専門機関)も、マネジャーには役割や期待値を明確にし、必要な知識・ガイダンスを提供し、仕事が期待どおり進んでいるかフィードバックすることが重要だと整理しています。
そもそも「指導」と「放置」は何が違う?
ここを理解すると、かなり整理しやすくなります。
| 指導 | 放置 |
|---|---|
| 目的を伝える | 目的を伝えない |
| 期限を伝える | 期限が曖昧 |
| 必要な情報を与える | 情報を与えない |
| 判断してよい範囲を示す | どこまで判断していいか不明 |
| 質問に対応する | 「自分で考えて」と突き放す |
| 途中で確認する | 完成後に突然ダメ出し |
| 改善点を具体的に伝える | 「何でできないの?」で終わる |
| 成長を目的にする | 結果だけを責める |
もちろん、仕事によっては「まず自分で考えてみて」と任せることもあります。
しかし重要なのは、
「考えさせるために必要な土台を渡しているか」
です。
「自分で考えて」は、本当に指導になるの?
ここは非常に重要です。
「自分で考えてみて」という言葉自体が悪いわけではありません。
むしろ、部下の成長を考えれば、自分で考える機会を与えることは重要です。
問題は、
考えるための情報まで与えず、「自分で考えろ」と言っている場合
です。
例えば、新しい業務を任されたとします。
指導の場合
「この資料を○日までに作ってください。
目的は○○です。
過去の資料を参考にしてください。
今回はAとBのどちらを優先するかは任せます。
分からなければ途中で確認してください。」
これなら、自分で考える余地があります。
一方……
放置の場合
「これ、やっといて。」
↓
「どうやるんですか?」
「そんなことも分からないの?」
↓
自分なりに作る
↓
「なんでこんな作り方したの?」
となれば、部下側からすると非常に困ります。
「考えろ」と言われているのに、考えるための材料がないからです。
なぜ「何も教えないのに怒る上司」が生まれるのか?
ここにはいくつかの可能性があります。
「自分ができる=相手も分かる」と思っている
経験豊富な上司ほど起こりやすいパターンです。
本人にとっては、
「これは当然」
「これくらい常識」
「普通こうする」
ということでも、部下にとっては初めてかもしれません。
長年の経験によって身についた知識は、本人にとっては「説明する必要がないほど当たり前」になっていることがあります。
しかし、
上司にとっての常識と、部下にとっての前提知識は同じではありません。
「教える」より「見て覚えろ」という価値観
「仕事は教えてもらうものではなく、見て覚えるもの」
という考え方を持つ人もいます。
もちろん、観察から学ぶこと自体には意味があります。
しかし、現代の職場では、期待する役割や業務内容を明確にすることもマネジメントの重要な要素です。
CIPDも、従業員が何を期待されているのかを理解し、仕事に必要なスキル・リソース・支援を得られることを、効果的なパフォーマンス管理の重要な要素として説明しています。
「自分で考える」と「責任を丸投げする」が混同されている
これはかなり注意したいポイントです。
本来の「任せる」は、
権限を渡す+必要な情報を渡す+結果を確認する
という形です。
ところが、
仕事だけ渡す+説明しない+結果が悪いと怒る
となると、部下からすれば責任だけ背負わされている状態になります。
「指導」なら、失敗したときに何が違う?
実はここを見ると分かりやすいです。
指導型の上司
「今回はここが違ったね。
次回は○○を確認してから進めよう。
ここは判断に迷ったら私に確認して。」
↓
次にどうすればいいか分かる。
放置型の上司
「なんでこんなこともできないの?」
「普通は分かるでしょ。」
「前にも言ったよね。」
↓
何を改善すればいいのか分からない。
ここが大きな違いです。
指導の目的は、単に間違いを指摘することではありません。
次に同じ問題が起きないように、具体的な行動につなげることも重要です。
厳しい指導=悪い上司、ではない
ここは誤解しないことも大切です。
上司から厳しく注意されたとしても、それだけで「悪い上司」「パワハラ」と判断することはできません。
厚生労働省は、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導は、パワーハラスメントには該当しないとしています。
例えば、
「このミスは重大だから、今後は必ずダブルチェックしてください」
「今回の対応では顧客に影響が出るので、次回からこの手順にしてください」
など、業務上必要な注意を具体的に伝えることは、指導の一部になり得ます。
重要なのは、
「厳しいかどうか」だけではなく、「必要性・相当性・具体性・継続的な対応」を見ること。
です。
一方で「放置+後から叱責」が続くなら注意したい
例えば、
- 仕事を任せるだけで説明がない
- 質問してもまともに答えない
- 判断基準を教えない
- 必要な情報を共有しない
- 失敗すると人格を否定する
- 後から「そんなことも分からないの?」と言う
- 「言わなくても分かるでしょ」が頻繁に出てくる
- 同じことを繰り返し責められる
- 改善方法を聞いても教えてもらえない
こうした状態が続いているなら、単なる「厳しい指導」なのか、職場環境上の問題なのかを一度整理したほうがよいでしょう。
厚生労働省が示すパワーハラスメントの典型例には、「精神的な攻撃」「過大な要求」「過小な要求」などがあります。ただし、実際にパワハラに該当するかどうかは個別事情を踏まえて判断されます。
「何も教えてくれない上司」から自分を守る方法
ここからが実践編です。
相手を変えることは難しくても、「言った・言わない」を減らす仕組みは作れます。
指示を受けたら、自分から確認する
例えば、
「確認ですが、今回は○○を△日までに対応する、という認識で合っていますか?」
これだけでも違います。
判断基準を質問する
「どうすればいいですか?」
だけではなく、
「AとBなら、今回はどちらを優先しますか?」
と聞いてみます。
選択肢を出すことで、上司の考えを確認しやすくなります。
「完成形」を確認する
「どの程度まで仕上げれば完了でしょうか?」
これはかなり有効です。
「そこまでやるとは思わなかった」
「そこまでやる必要はない」
という後出しのトラブルを減らせます。
重要な指示は記録する
メールやチャットなどで、
「先ほどの件、○○という認識で進めます。」
と残しておく。
これは上司を攻撃するためではありません。
自分の認識を明確にして、仕事上の認識違いを防ぐためです。
怒られたら「次回の基準」を聞く
例えば、
「次回から同じことが起きないようにしたいので、今回の場合はどのように判断すればよかったか教えていただけますか?」
この聞き方は非常に重要です。
「怒られた」で終わらず、
「次から何をすればいいのか」
という具体的な話に戻せるからです。
こんな上司なら「指導」に近い
チェックしてみましょう。
□ 仕事の目的を説明する
□ 期限を伝える
□ 必要な情報を共有する
□ 分からないことを質問できる
□ 判断していい範囲を伝える
□ 途中で確認する機会がある
□ ミスを指摘するときに改善方法も伝える
□ 部下の経験や能力に応じて説明量を調整する
□ 必要に応じてフォローする
□ 結果だけでなくプロセスも確認する
当てはまるものが多いほど、少なくとも**「部下が仕事を遂行するための支援をしながら任せる」マネジメント**に近いと考えられます。
逆に「放置」に近いのは?
□ 「適当にやって」と丸投げされる
□ 何を求めているのか説明されない
□ 質問すると嫌な顔をされる
□ 「自分で考えて」としか言われない
□ 判断基準を教えてもらえない
□ 後から「普通は分かる」と言われる
□ ミスをすると、原因より人格を責められる
□ 改善方法を聞いても教えてもらえない
□ 同じ仕事でも上司の気分によって基準が変わる
□ 「言ってないこと」まで「言った」とされる
もし多く当てはまるなら、
「自分の能力が低いから何もできない」
と決めつける前に、
「そもそも仕事を遂行するための情報や基準が十分に与えられていたのか?」
を振り返ってみてください。
まとめ|「自分で考えろ」と言われても、自分を責めすぎなくていい
仕事では、自分で考えて行動することも大切です。
でも、
自分で考えることと、何も教えてもらえないことは同じではありません。
指導とは、
必要な情報を与えたうえで、自分で考え、行動できるようにすること。
一方、
必要な情報や基準を与えないまま任せ、結果だけを責めること
が繰り返されているなら、それは少なくとも「分かりやすい指導」とはいえません。
そして、上司から怒られたときに、
「私がダメだからだ」
とすぐに結論づける必要もありません。
まずは、
「私は何を知らされていた?」
「上司は何を期待していた?」
「その期待は事前に共有されていた?」
「次にどうすればいいのか、具体的な説明はあった?」
と、事実を分けて考えてみましょう。
それだけでも、必要以上に自分を責めることを防げます。
🌱 そして、もう一つ大切なこと
「何も教えてくれない上司」の問題は、単純に上司が怖い・性格が悪いという話だけではありません。
「曖昧な指示 → 自己判断 → 結果への叱責」
という構造そのものに問題があるケースがあります。
だからこそ、部下側も
「確認する」
「記録する」
「基準を聞く」
「期待値を言語化する」
ことで、自分を守ることができます。
※「何も教えない=直ちにパワハラ」という意味ではありません。パワハラ該当性は、優越的な関係、業務上必要かつ相当な範囲を超えているか、就業環境への影響などを含め、個別に判断されます。
【情報源】
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント防止指針」
CIPD「Introduction for line managers」
CIPD「Performance management: An introduction」

